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神戸地方裁判所 平成3年(ワ)1761号 判決 1993年2月10日

甲事件原告

日産火災海上保険株式会社

乙事件被告

坂部寛

甲事件被告(乙事件原告)

石飛正展

甲事件被告

石飛郁輔

ほか一名

主文

一  被告正展は、原告日産火災海上保険に対し、金一万八三二九円及びこれに対する平成三年六月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告日産火災海上保険の被告正展に対するその余の請求並びに被告郁輔及び被告幸子に対する各請求をいずれも棄却する。

三  被告坂部は、被告正展に対し、金一二〇万四四一六円及びこれに対する平成二年七月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告正展のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じてこれを八分し、その三を原告日産火災海上保険の、その三を被告坂部の、その余を被告正展の各負担とする。

六  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の請求

一  原告日産火災海上保険の請求(甲事件)

被告正展、被告郁輔及び被告幸子は、原告日産火災海上保険に対し、各自、金一八万三二九九円及びこれに対する平成三年六月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(ただし、本件保険金の求償は車両損害に限つての請求である。)。

二  被告正展の請求(乙事件)

被告坂部は、被告正展に対し、金一七四万八一二〇円及びこれに対する平成二年七月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件のうち、甲事件は、原告日産火災海上保険が自動車保険契約に基づき本件交通事故によつて損傷した被告坂部運転車両の修理費用を支払つたため右事故を惹起した被告正展並びにその両親である被告郁輔及び被告幸子に対し代位取得した損害賠償請求権を行使するものであり、他方、乙事件は、被告正展が被告坂部に対し民法七〇九条に基づき本件交通事故により被つた損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実など

1(本件事故の発生)

被告坂部は、平成二年七月一〇日午前八時一〇分頃、神戸市長田区鴬町四丁目六番九号先の交差点(以下「本件交差点」という)において、普通貨物自動車(以下「原告車両」という)を運転して南方から東方に向かつて右折するに当たり、その右前部を、対向車線を南進してきた被告正展運転の自動二輪車(以下「被告車両」という)の右前部に衝突させた(争いがない)。

2(両車両の損傷と被告正展の受傷)

本件事故の結果、原告車両と被告車両はいずれも損傷し、また、被告正展は、路上に転倒して全身打撲、右大腿裂創(筋損傷)及び右大腿化膿創の傷害を受け、次のとおり入通院して治療を受けた(争いがない)。

(一)  平成二年七月一〇日から同年八月九日までの間小原病院に入院(三一日間)

(二)  同年九月二七日小原病院に通院(一日)

(三)  同年八月一一日から同年一〇月一七日までの間武田整形外科に通院(実日数二二日間)

3(本件自動車保険契約の締結とその履行)

(一)  原告日産火災海上保険は、平成二年四月一二日、伸栄汽罐工業所こと大山博司(以下「大山」という)との間で、大山所有の原告車両につき、次の内容の自動車保険契約を締結した(以下「本件自動車保険契約」という)(甲一一及び一二号証)。

(1) 保険期間 平成二年四月一二日から平成三年四月一二日まで

(2) 車両保険金額 金六〇万円

(3) 被保険自動車 原告車両

(4) 車両条項 原告日産火災海上保険は、衝突その他偶然の事故によつて原告車両に生じた損害を填補する。

(二)  大山は、本件事故によつて損傷を受けた原告車両の修理費用として、金一八万三二九九円を要することとなつたため、原告日産火災海上保険は、平成二年九月六日頃、本件自動車保険契約に基づき、右修理費用を修理業者に支払つて大山の損害を填補した(甲一三及び一四号証)。

4(被告正展と被告郁輔、被告幸子との身分関係等)

被告郁輔は被告正展の父であり、被告幸子は被告正展の母であるが、被告正展は、本件事故当時、兵庫県立兵庫高等学校(以下「兵庫高校」という)三年生であり、同校では単車による通学が禁止されていたにもかかわらず、被告車両を運転して通学し、本件事故の際も同級生の土田耕一を後部座席に同乗させて登校する途中でのことであつた(争いがない)。

5(損害の一部填補)

被告正展は、これまでに被告坂部から損害の填補として小原病院及び武田整形外科における治療費合計金二一万七八四〇円と三鈴薬局の投薬料金六九二〇円の合計金二二万四七六〇円の支払を受けた(争いがない)。

二  主たる争点

1  被告正展の過失の有無

(原告日産火災海上保険及び被告坂部の主張)

(一) 被告正展は、被告車両を運転して本件交差点を南進するに当たり、本件交差点の北側手前で、交差点南側手前の中央帯において南方から東方に向かつて右折するために停止している原告車両を認めるとともに、被告車両の進行する南行車線の中央において南進中の普通乗用自動車(以下「訴外車両」という)が交差点北側手前で原告車両を右折、通過させるために既に停止しているのを認めたのであるから、原告車両の右折の動向及び自車進路右側の安全を確認した上徐行して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、そのまま時速約三〇キロメートルの速度で進行した結果、原告車両と衝突したのであるから、被告正展に過失のあることは明らかであつて、民法七〇九条に基づき、原告車両に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二) また、それゆえ、被告正展の被告坂部に対する損害賠償請求についても、被告正展の右過失を過失相殺としてしん酌すべきである。

(被告正展、被告郁輔及び被告幸子の主張)

(一) 本件事故は、被告坂部の一方的過失によつて発生したものであり、被告正展に過失はない。

(二) すなわち、被告正展は、南行車線を南進中、本件交差点南側手前の中央帯で右折の合図をしながら停止した原告車両を自車前方約四〇メートルの地点に認めたため、時速約三〇キロメートルに減速して進行し、さらに、南行車線上に入つてきた原告車両が再び停止したのを自車前方約一八メートルの地点に認め、しかも原告車両を運転していた被告坂部が被告車両の南進を認識していること(原告車両はワゴン車であり、運転席が高く対向車両に対する見通しが良い。)を認めたため、被告坂部がそのまま停止して被告車両の通過を待つてくれるものと判断し、徐行せずに速やかに本件交差点を通過しようとして進行したのであつて、本件事故は、被告坂部が被告車両の通過を待つてから右折進行すべきであつたにもかかわらず、突然、被告車両との距離が約三・五メートルくらいの距離になつて時速約五キロメートルの速度で発進した一方的過失によつて発生したものである。

そして、右のような本件事故の状況からすると、被告正展は、被告坂部がそのまま停止して被告車両の通過を待つてくれるものと信頼して進行したことは相当であるから、いわゆる信頼の原則が適用されるべきであつて、被告正展に過失ありとすることはできない。

2  被告郁輔及び被告幸子の不法行為責任の有無

(原告日産火災海上保険の主張)

被告郁輔呼び被告幸子は、被告正展の父母として、いずれも、本件事故当時一七歳の高校三年生であつた被告正展を指導監督すべき立場にあつたところ、被告正展が被告車両を購入して通学に使用していることを知りながら、、被告正展に対し、被告車両を運転する際には単車運転者として交通法規を遵守すること及び単車通学が禁止されているのであるから通学には被告車両を使用しないことを十分に指導監督すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、被告正展が交通法規を遵守しないままで被告車両を運転することを許容し、しかも被告車両を通学に使用することを禁止しなかつたのであるから、本件事故発生につき、被告正展に対する指導監督義務違反のあることは明らかであつて、被告郁輔及び被告幸子も、民法七〇九条に基づき、被告正展と連帯して、原告車両に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(被告郁輔及び被告幸子の主張)

被告郁輔及び被告幸子は、いずれも日頃から被告正展に対し交通法規を遵守するよう注意を与えており、被告正展に対する指導監督義務違反の過失はなく、被告郁輔及び被告幸子が被告正展の単車通学を止めさせなかつたことをもつて不法行為とすることはできない。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の状況について

前記争いのない事実と証拠(甲四ないし一〇号証、被告坂部及び被告正展の各供述)を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件事故現場である交差点は、南北道路と東行道路が交差するT字型の交差点であり、信号機による交通整理は行われていない。

南北道路の車道の総幅員は一二メートルであり、そのうち原告車両が北進した北行車線(一車線)の幅員が四・六メートル、被告車両が南進した南行車線(一車線)の幅員が四・四メートル、中央帯の幅員が三メートルである。そして、南行車線の東側にはガードレールで断続的に区分された幅員二・六メートルの歩道が設けられている。また、原告車両が右折しようとした東行道路の西詰部分の総幅員は七・七メートルである。

2  本件交差点付近の南北道路は直線道路であり、被告坂部及び被告正展双方からの前方に対する見通し状態はいずれも良好で、本件事故当時、道路の路面も平坦で乾燥していた。

なお、制限速度は時速四〇キロメートルとされている。

3  被告坂部は、前記日時頃、被告車両を運転して姉の自宅に向かうため、北行車線を北進したのち、本件交差点において東方に向かつて右折しようと考え、右折の合図をしながら、交差点南側手前の中央帯でいつたん停止して南行車線を南進するやや渋滞中の対向車両が途切れるのを待つたところ、折から南行車線の中央付近を南進してきた訴外車両が交差点北側手前で停止してくれたため、約五・五メートル進行して交差点内の南行車線上の西側半分付近にまで進入して再び停止した。

4  そして、被告坂部は、対向車両の有無を再度確認した際、本件交差点の北方に南進中の被告車両を約一八メートル前方の地点に認めたものの、被告車両は交差点の手前で停止してくれるか、あるいはそうでなくとも原告車両の方が先に右折し終えられるものと考え、被告車両の注視をやめて、再度の停止から約二、三秒後に時速約五キロメートルの速度で東行道路に向かつて発進した。

5  他方、被告正展は、その頃、兵庫高校に登校するため、土田耕一を後部座席に同乗させて被告車両(二五〇CC)を運転し(いずれもヘルメツト着用)、南行車線の東側部分(外側線付近上)を南進していたが、本件交差点の北方付近から、南行車線の中央を進行する自動車が渋滞するようになつていた。

6  そして、被告正展は、本件交差点の北側手前まで進行したところ、南方から東方に向かつて右折するため交差点南側手前の中央帯において停止した原告車両を自車前方約四〇メートルの地点に認めたため、時速約三〇キロメートルの速度に減速して進行し、さらに、南行車線の中央を進行していた訴外車両及びその後続車両が原告車両を右折させるために交差点北側手前で停車し、これにより原告車両が南行車線に入つて停止したのを自車前方約一八メートルの地点に認め、しかも原告車両の運転者が被告車両の南進に気付いてくれる様子を感じたため、原告車両はそのまま停止して被告車両の通過を待つてくれるものと考え、徐行せずに交差点を通過しようとしてそのまま進行したところ、4のように原告車両が南行車線上からさらに発進したのを自車前方約三・五メートル付近で発見したものの、原告車両との衝突を避け得ず、被告車両の右前部が原告車両の右前部に衝突し、被告正展と土田は被告車両とともに路上に転倒した。

7  右衝突に際し、他方、被告坂部は、4のように原告車両を前記南行車線上から発進させたところ、被告車両の接近に気付いてあわてて急制動の措置を取つたものの、間に合わず、再度の停止地点から約一・二メートルの地点で被告車両と衝突した。

二  被告坂部の過失について

前記一で認定した事実関係によると、被告坂部は、原告車両を運転して本件交差点を南方から東方に向かつて右折するに当たり、被告車両の動静を注視し、同車の通過を待つて右折進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、同車との安全確認が不十分なまま右折進行した過失があるといわなければならない。

したがつて、乙事件につき、被告坂部は、被告正展に対し、民法七〇九条に基づき、被告正展の被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  被告正展の過失について

1  また、前記一で認定した事実関係によると、被告正展は、被告車両を運転して信号機による交通整理の行われていない本件交差点を南進するに当たり、対向車線を進行してきて右折しようとする原告車両を自車前方約四〇メートルの地点に認め、さらにその後、原告車両が前記のような訴外車両の停止に伴つて交差点内の南行車線上の西側半分付近にまで進入して再度停止したのを自車前方約一八メートルの地点に認めたというのであるから、このような場合、右のような原告車両の動静を注意し、できる限り安全な速度と方法で進行すべき注意義務があることは否定できず(道路交通法三六条四項)、被告正展において、原告車両はそのまま停止してくれるものと考えて減速徐行することなく時速約三〇キロメートルの速度により本件交差点内を進行したことは右注意義務を怠つた過失があるといわなければならず、本件事故が被告坂部の一方的過失によるものであるとは認められない。

2  ところで、被告正展、被告郁輔及び被告幸子は、被告正展が右のように本件交差点を減速徐行することなく進行したことにつき、被告坂部が前記再度の停止地点でそのまま停止して被告車両の通過を待つてくれるものと信頼したことは相当であるから、いわゆる信頼の原則が適用されるべきであつて、被告正展に過失ありとすることはできない旨主張する。

しかしながら、前記1で判示したとおり被告正展にも交通法規違反の過失があるというべきことのほか、前記認定のように被告車両の西側では訴外車両等が既に停止して原告車両の右折通過を待つている状態にあり、また、原告車両がこれに伴つて本件交差点内の南行車線上の西側半分付近にまで既に進入していたこと等の事情を総合すると、南行車線の東側部分を進行していた被告正展において、原告車両が再度発進して右折を続けようとすることを予測し得ないものとまではいい難いから、原告車両がそのまま停止して被告車両の通過を待つてくれるものと信頼したことを直ちに相当であつたとすることはできないというべきである。

したがつて、信頼の原則に関する前記主張は採用しない。

3  そうすると、被告正展は、甲事件につき、民法七〇九条に基づき、原告車両に生じた損害を賠償すべき責任を免れない。

四  過失割合について

これまでに認定、説示したところに基づいて被告坂部と被告正展の過失割合を検討するに、右折車と直進車(自動二輪車)の対向方向からの衝突事故という本件事故の態様、被告坂部及び被告正展双方の進行状況と相手方車両に対する動静注視ないし安全確認の程度と内容等の諸事情によると、本件事故発生につき、被告坂部の過失割合を九、被告正展の過失割合を一とみるのが相当である。

五  甲事件における被告郁輔及び被告幸子の不法行為責任の有無

1  前記争いのない事実と証拠(甲七、八号証、乙一〇号証、被告正展の供述)を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 被告正展は、肩書住所地の自宅において被告郁輔及び被告幸子の両親とともに居住し、本件事故当時、兵庫高校三年生であつたが、右高校在学中の平成元年一一月に原動機付自転車の運転免許を、平成二年四月一七日に自動二輪の運転免許をそれぞれ取得した。

(二) 被告正展は、自動二輪運転免許を取得して一週間後に友人から被告車両を現金約二〇万円の支払とラジカセ等の商品の交付のほか、貸金八万円の返済免除によつて買い受けたが、その際には、被告郁輔及び被告幸子から右購入につき反対を受けたものの、交通違反や事故を起こさないということで何とか説得したものであり、右現金約二〇万円の支払については本件事故の前後に分けてアルバイトによつて得た金銭で支払い、その後のガソリン代についても自ら負担していた。

(三) 被告正展は、被告車両を購入した後、毎日のように運転し、兵庫高校では単車通学が禁止されているにもかかわらず、平成二年五月頃からは被告車両で通学するようになり、被告郁輔及び被告幸子は、そのような被告正展の被告車両による通学を知りながら、被告正展に対し格別の注意を与えなかつた。

(四) 被告正展は、被告車両購入後本件事故当日までの約三か月間において、いわゆる暴走行為をしたことはなく、また、交通違反等により検挙、補導を受けたことも一度もなかつたのであり(ただし、原動機付自転車を運転していた頃に一度定員外乗車によつて検挙されたことがある。)、本件事故当日は、前記のとおり被告車両を運転し級友土田を同乗させて登校する途中であつた。

なお、被告車両については、本件事故当時、自賠責保険が切れており、任意保険は付保されていたものの友人名義のままであつたが、本件事故の結果、ハンドル折損等大破した。

2  以上に認定した事実関係を総合すると、被告正展が被告車両を運転するに当たり危険な運転をして事故を惹起するような徴候はなかつたものと認めるのが相当であるから、被告郁輔及び被告幸子においては、被告正展が被告車両を通学に使用することを知りながら格別の注意を与えずこれを放置していたとしても、そのことから被告正展が前記認定、説示にかかるような過失により本件事故を惹起させるかもしれないことを予見することは困難であつたといわざるを得ず、そのほか、日頃の具体的な指導監督の懈怠について主張、立証のない本件においては、被告郁輔及び被告幸子が右のような態度で被告正展の被告車両による通学を止めさせなかつたことをもつて、本件事故の発生と相当因果関係のある指導監督義務違反があつたとすることはできないというべきである。

そうすると、被告郁輔及び被告幸子は、民法七〇九条に基づく不法行為責任を負うものではないことに帰着する。

六  原告日産火災海上保険の請求について(甲事件)

1  以上によると、大山は、本件事故の結果原告車両に生じた修理費用金一八万三二九九円につき、被告正展に対し、前記四の過失割合に従い右金額から九割を控除した金一万八三二九円(一円未満切捨て)の損害賠償請求権を有することになる。

そして、原告日産火災海上保険が平成二年九月六日頃本件自動車保険契約に基づき右修理費用を支払つて大山の損害を填補したことは前記判示のとおりであるから、原告日産火災海上保険は、大山の被告正展に対する金一万八三二九円の損害賠償請求権を代位取得したものというべきである。

2  そうすると、原告日産火災海上保険の請求は、被告正展に対し金一万八三二九円及びこれに対する甲事件訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな平成三年六月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告正展に対するその余の請求並びに被告郁輔及び被告幸子に対する各請求はいずれも失当であるから、これらを棄却すべきものである。

七  被告正展の請求について(乙事件)

1  被告正展の損害

(一) 治療費(争いがない) 金二一万七八四〇円

(二) 投薬料(争いがない) 金六九二〇円

(三) 入院雑費(争いがない) 金四万〇三〇〇円

(四) 交通費 金二万三一五〇円

証拠(乙九号証及び被告正展の供述)によると、被告正展は、小原病院の退院時からその後の通院及び兵庫高校への通学に際してタクシーを利用し、その合計額が金二万三一五〇円になることが認められ、また、前記のような被告正展の傷害の部位や程度によると、右のタクシー利用を不相当であつたとすることはできないから、これを損害として認めるのが相当である。

(五) 傷害による入通院慰謝料 金七五万円

前記のような本件事故の態様と傷害の部位や程度、入通院期間等を総合して勘案すると、傷害による入通院慰謝料としては、金七五万円が相当である。

(六) 眼鏡代 金三万一九三〇円

証拠(乙七号証及び被告正展の供述)によると、被告正展は、平成元年(高校二年生)に本件事故当時にかけていた眼鏡を購入したが、本件事故の際にフレームとレンズが壊れたため、新品との買替えを余儀なくされ、金三万一九三〇円の支出を要したことが認められ、この認定に反する証拠はないから、これをもつて損害と認めるのが相当である。

(七) 被告車両の車両損害と引取費用 合計金三一万六〇〇〇円

証拠(乙五、六号証及び被告正展の供述)によると、被告車両は、スズキの平成元年式二五〇CCの自動二輪車であるが、「オートガイド自動車価格月報」では平成二年当時における同種同型の自動二輪車の中古車販売価格として金三七万円と記載されていることが認められ、また、被告正展が友人から被告車両を購入した際には前記認定のように現金約二〇万円の支払のほかにラジカセ等の商品を交付し、貸していた金八万円の返済を免除するなどの対価を出捐していたことをも併せ考えると、本件事故当時における被告車両の価格は金三〇万円を下回らないものと認められ、さらに、右証拠によると、本件事故の結果、被告車両は大破して修理不能となり、その引取費用として金一万六〇〇〇円の支出を要したことが認められ、これらの認定に反する証拠はないから、以上を損害として認めるのが相当である。

(八) その他の物損 金六万八五〇〇円

まず、証拠(乙八号証、検乙一ないし七号証、被告正展の供述)によると、本件事故の結果、被告正展が事故当時に着用していたシヤツ、ズボン、腕時計、靴、きんちやく袋及びヘルメツトと、同乗者土田が着用していたヘルメツトの合計七点が破損したこと、これらの品物は、腕時計を除き、いずれも被告正展が本件事故の約四か月ないし約二年前に購入した物であり、腕時計についてはそれ以前に抽選によつて賞品として入手した物であつて、その後、被告正展が使用を続けていたことが認められる。

被告正展は、右七点の品物の購入価格ないし入手時における価格をもつて直ちにこれを損害と主張しているが、右購入価格及び入手時の価格について乙八号証と被告正展の供述しか得られていない本件においては、被告正展主張の価格(合計金一三万七〇〇〇円)をもつて直ちにこれを損害と認めることは困難であり、しかも、右のような品物については概ねその後の使用によつて相当な価格低下がみられることは顕著な事実であるから、以上の事情を勘案すると、結局、本件においては、右七点の品物の破損につき、被告正展主張にかかる価格の各五割をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

そうすると、右損害額は金六万八五〇〇円となる。

(九) 以上の損害額を合計すると、金一四五万四六四〇円となる。

2  過失相殺

そして、被告正展に本件事故の発生につき一割の過失があることは前記四でみたとおりであるから、前記損害額から一割を控除すると、金一三〇万九一七六円となる。

3  損益相殺

被告正展がこれまでに被告坂部から損害の填補として治療費及び投薬料合計金二二万四七六〇円を受領したことは前記のとおり争いがないから、これを2の損害額から控除すると、金一〇八万四四一六円となる。

4  弁護士費用

右認容額と本件事案の内容、訴訟の審理経過等を総合勘案すると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき弁護士費用の額は、金一二万円が相当であるというべきである。

5  以上によると、被告正展の被告坂部に対する請求は、金一二〇万四四一六円及びこれに対する本件事故日である平成二年七月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとする。

八  よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 安浪亮介)

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